iOSキーボードの「フルアクセスを許可」が実際に意味すること
この権限が技術的に何を解放するのか、なぜiOSの警告文があれほど厳しい言い回しなのか、そして目の前のキーボードにそれが本当に必要かをどう見極めるかを整理します。
iPhoneでキーボードのフルアクセスを有効にしようとすると、入力した内容がすべて送信される可能性があり、クレジットカード番号やパスワードも含まれる、という趣旨の警告が表示されます。率直に言って怖い文章で、ダウンロードしたばかりのキーボードの設定を途中でやめてしまう最大の理由がこれです。だからこそ、この一文が何を言っていて、何を言っていないのかを正確に押さえておく価値があります。
技術的に何が変わるのか
初期状態では、iOSのキーボード拡張はネットワークに一切つながらないサンドボックスの中で動いています。できるのは、自分が接続されているテキスト入力欄を扱うことで、実質的にはそれだけです。インターネットに出ることはできず、システムのクリップボードも読めず、位置情報も使えず、自分の親アプリのストレージにも通常の方法では触れません。
フルアクセスを有効にすると、この制限が外れます。具体的に解放されるのは次のとおりです。
- ネットワークアクセス。拡張がサーバーへリクエストを送れるようになります。
- システムのペーストボード、つまりクリップボード。
- キーボードの親アプリとの共有ストレージ。
- アプリ側が別途要求している場合に限り、位置情報などの一部のシステムサービス。
したがってあの警告は、正確ではあるものの、あくまで一般論です。あなたが今インストールしたキーボードについて述べているわけではありません。ネットワークアクセスという選択肢が生まれた以上、そのキーボードが打鍵内容をどう扱うかをiOSとしては技術的に保証できなくなる、という宣言です。クラウド同期を行う高機能なキーボードにも、見た目を変えるだけの小さなキーボードにも、まったく同じ文面が表示されます。
キーボード側がこの権限を求める理由
正当な理由は、実際にはそう多くありません。
- クリップボード関連の機能。ツールバーの貼り付けボタンや、コピー履歴のパネルは、この権限なしでは原理的に動きません。
- ユーザー辞書や学習した語句、設定を複数の端末で同期する機能。
- サーバー側で処理する予測変換、翻訳、文章校正など。入力内容が端末の外に送られます。
- インストール後にテーマや辞書、言語パックをダウンロードする仕組み。
- 解析データの送信。利用者側から見ると、得られるものに対してリスクの割合が最も悪い理由です。
逆に言えば、このどれにも当てはまらないキーボードには、フルアクセスを求める正直な理由がありません。スイッチを切ったままでも一通り使えるはずです。
目の前のキーボードをどう見極めるか
次の三つを確認すれば、判断材料としてはほぼ足ります。
- フルアクセスを切ったままで、そもそも使えるかどうか。権限を与えるまで文字入力そのものを拒むなら、それは悪い兆候です。文字を入力するのに特別な権限は要りません。
- 開発元が、平易な言葉で、具体的に用途を説明しているかどうか。「すべての機能を使うために必要」は説明になっていません。「貼り付けボタンに必要」なら説明になっています。
- App Storeのプライバシー表示に何と書かれているか。何も収集せず、送り先となるサーバーも持たないなら、仮に送れる状態でも送るものがありません。
いちばん確実なのは、切ったままにして何が動かなくなるかを見ることです。フルアクセスは設定 App →「一般」→「キーボード」→「キーボード」→ 該当のキーボード、にあるスイッチで、いつでも切り直せます。
警告文を読むときの距離感
この警告は、審査を通ったかどうかや開発元の姿勢とは関係なく、すべてのキーボードに一律で表示されます。つまり、そのキーボードが危険だという判定ではありませんし、逆に安全だという保証でもありません。文面から読み取れるのは「この先はiOSが保証しない領域です」という境界の宣言までで、その先を埋めるのは、上に挙げたような具体的な確認です。有効にしたあとで気が変わったなら、同じ場所でいつでも無効に戻せますし、そのとき止まるのは権限に依存した機能だけです。
よくある質問
フルアクセスが有効だと、パスワードまで読まれてしまうのですか。
セキュアなテキスト入力欄からは読まれません。パスワード欄や決済用の欄では、どのキーボードを追加していてもiOSが純正キーボードに切り替えるため、サードパーティ製のコードがその文字に触れることはありません。フルアクセスが左右するのは、通常の入力内容を端末の外へ送れる状態になるかどうかです。
一度有効にしたフルアクセスは、あとから切れますか。
いつでも切れます。設定 App →「一般」→「キーボード」→「キーボード」→ 該当のキーボード、で無効に戻せます。その権限に依存していた機能は動かなくなりますが、それ以外の挙動は変わりません。
警告文が出るキーボードは避けたほうがよいのでしょうか。
その文面はすべてのキーボードに同じように表示されるので、避ける理由にも安心する理由にもなりません。判断材料になるのは、権限を切った状態でも入力できるか、開発元が用途を具体的に説明しているか、App Storeのプライバシー表示に何と書かれているか、の三点です。
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