サードパーティ製キーボードでなぞり入力が使えないのはなぜか
指を離さずに文字の上をなぞると語になる入力は、iOSが全キーボードに配っている機能ではありません。設定の見落としでもフルアクセスの問題でもなく、各キーボードが一から作るかどうかの話です。仕組みと、フリック入力との違いを整理します。
Apple純正のキーボードでは、指を離さずに文字から文字へなぞると、途中の経路から語が組み立てられます。入れたばかりのキーボードで同じようになぞっても、通り過ぎた文字がばらばらに並ぶか、何も起きないことがほとんどです。設定を間違えたように見えますが、たいていは何も間違っていません。そのキーボードが、この機能を作っていないだけです。
なぞり入力が実際にやっていること
指がどの文字の近くを通ったかを記録しているだけではありません。描かれた経路の形そのものを、語の辞書と照らし合わせ、いちばん近い語を選んでいます。打ち間違えた綴りに対して自動修正が行う推測と同じ種類の処理で、入力がタップの列ではなく一本の軌跡になっただけです。この照合の部分が機能の本体で、指が通った文字はその材料でしかありません。
多くのキーボードに入っていない理由
iPhoneのカスタムキーボードはキーボード拡張です。iOSから渡されるのは、キーを描くための枠と、カーソル周辺の文字を読み書きするための窓口まで。軌跡を語に変える共通のエンジンは渡されません。この機能を備えたキーボードは、経路を認識する仕組みも、照合先の辞書も、すべて自前で用意しています。絵文字のパネルや長押しの肌色選択を自分で作らなければならないのと同じ関係です。
そして、これはキーボード拡張がふだんやっている仕事より一段重い作りものです。テーマを描く、打鍵時に音を鳴らす、装飾文字に置き換える。どれも答えのはっきりした閉じた作業です。軌跡の認識は、動いている指を実時間で追い、数万語の候補と突き合わせ、それをキーボード拡張に課された厳しいメモリとCPUの枠内で終わらせなければなりません。投資するキーボードもありますが、音やテーマ、打ち心地を軸にしたキーボードが手を出さないのは、範囲の判断であって不具合ではありません。
フリック入力となぞり入力は別のもの
日本語のかな入力に慣れていると混同しやすいところです。フリック入力は、キーから指を短く払って、その向きで文字を決める操作です。指はキーの外へ長く走りませんし、辞書と経路を照合してもいません。一方のなぞり入力は、複数のキーの上を連続して通過した軌跡そのものを語に変換します。似ているのは「指を滑らせる」という見た目だけで、中身は別の仕組みです。
そしてフリック入力もまた、キーボード拡張がそれぞれ自分で実装するものです。日本語のかな入力に対応したサードパーティ製キーボードが、純正と少し違う払い方や配列を持っていることがあるのは、そのためです。iOSが配って回る共通部品はここにも存在しません。
入っているかどうかの見分け方
純正キーボードで試すのと同じように、指を離さずに文字から文字へゆっくりなぞってみてください。指を離した時点で語が一つ組み上がったなら、そのキーボードはなぞり入力を作っています。何も起きないか、通りがかった文字がそのまま並んだなら、作っていません。後から有効にする設定はどこにもありません。認識のためのコードそのものが無いからです。
フルアクセスとは関係がない
サードパーティ製キーボードで何かが動かないと、iOSが繰り返し確認してくるフルアクセスのせいだと考えたくなります。なぞり入力はその対象ではありません。フルアクセスが決めているのは、キーボード拡張がネットワークに出られるか、システムのクリップボードを読めるかどうかです。指の軌跡を辞書と照らし合わせる処理は端末の中だけで完結するので、どちらも必要としません。オフのままでもなぞり入力を備えたキーボードは作れます。無いのは、認識の仕組みを誰も作らなかったからです。
二つのキーボードを使い分ける
キーボード拡張は互いを置き換えず、リストに並んで共存します。長い文章をなぞって一気に打ちたいときのために純正のキーボードを残しておき、それ以外の時間は音やテーマ、打ち心地で選んだキーボードを使う、という分け方に何の問題もありません。切り替えは地球儀キーの長押し一回です。どちらかに、もう一方の仕事まで背負わせる必要はありません。
よくある質問
なぞり入力にはフルアクセスが必要ですか。
必要ありません。フルアクセスが決めているのはネットワーク接続とシステムのクリップボードへの到達で、軌跡の照合はすべて端末内の計算です。なぞり入力が無いキーボードは、権限を止められているのではなく、その機能自体を持っていません。
なぞり入力を後から有効にする設定はありますか。
ありません。なぞり入力は、開発者が書いたか書かなかったかという認識のコードそのものです。iOSの設定にも、そのキーボードの設定画面にも、後から追加するスイッチは存在しません。
フリック入力ができるなら、なぞり入力もできるのではないですか。
別の仕組みです。フリック入力は一つのキーから短く払って文字を決める操作で、経路を辞書と照合してはいません。なぞり入力は複数のキーをまたぐ軌跡の形から語を推測します。フリック入力に対応していることは、なぞり入力の有無とは関係しません。
純正でなぞり入力、カスタムキーボードでそれ以外、という使い方はできますか。
できます。キーボードはリストに同時に置いておけるので、どちらかを削除する必要はありません。地球儀キーを長押しして一覧から選べば、これから打つ内容に合うほうへその場で移れます。
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